スーパーマーケットの景色

ファンタジーの中の真理

「ある程度の規模と財力を持つ地方都市は、みんな街の景色が似てくる。その土地らしさは、生活の細部―食べ物とか地酒とか生活習慣とかに踏み込まないと、なかなか感じとれなくなる。豊かになると、生活の基礎部分が均一化されるからだ」。
これは誰の言葉か。トマ・ピケティ氏の「21世紀の資本」からの引用か。さにあらず。出典は宮部みゆきさんの近著「悲嘆の門」(毎日新聞社下巻)。
「極上のファンタジーの奥深く浸りこんでいたら、このくだりに出合った。エコノミスト的現実感覚の世界に引き戻されてしまった。少々愕然。」これは著名なエコノミストでる同志社大教授の浜矩子さんが毎月1回全国紙のオピニオン面に掲載している一節である。
いつも小気味の良い文章や発言は批判精神に溢れながら、しかも洞察力とユーモアもある。大好きな経済学者である。
「おのずと形成された豊かさが、おのずと生活の基礎部分の均一化をもたらすならいい、問題はそこに、背伸びや幻想や希望的観測という名の不自然さが忍び込むことなのである。無論、均一化には均一化自体がもたらす問題がある。均一化が前面に出て多様性が後景に退くと、経済社会は必ず滅びる。宮部さんがいう、 “ その土地らしさ ” が希薄化していくと、共同体はみずみずしさを失っていく」。これは浜矩子さんがギリシャと統合欧州が抱える永遠のジレンマに言及したさわりの一節だ。この原稿はギリシャとその他諸国との間で金融支援継続合意なるかという決着を前に書かれたもので、浜さんの見通し通り、妥協成立となった。だが同時に浜さんは、そのような決着が本質的に無難だとは、到底言えないとも指摘している。妥協的成立は、不自然な均一化の世界を不自然な形で延命することを意味しているからだ。

 

景色が似てくる

ある経済圏が単一通貨圏としてうまく行くためには、まさしく「景色が似てくる」ことが必要だ。経済的風景が均一化し、均質化する。これが単一通貨圏を成り立たせる本源的な条件だ。経済的風景を構成する要素には、物価水準・賃金水準・失業率・金利水準・産業構造などなど、さまざまある。それらが、おのずと似てくる。次第にはほとんど区別がつかなくなる。それくらいの似た者同士なら、一つの通貨を共有することに差し障りはない。だが規模も財力も違い、豊かさのレベルも均一化していない者たち同士が共に生きているなら、やはり通貨が一つというのも無理だ。それぞれのお財布の形や大きさにピッタリサイズの通貨がなければ、誰もが不自由で仕方がない。不自然さは、必ず不自由さにつながる。ギリシャは、やはり不自由通貨ユーロと決別して、自然体に戻るのがいいだろう。浜先生の思いは強まる一方だ。

 

スーパーマーケットの景色

世界の景色、ギリシャの景色ときて、突然で申し訳ないが、スーパーマーケットの景色が気になりだした。浜矩子さんの記事を読んでいて、どこかで似たような景色があるような気がしてきた。そうだ、今日のスーパーマーケットの景色だ。もっとも浜さんは経済的景色の話を描いているのだから、決して関係ない話ではないが、今日のスーパーマーケットの経済的風景も同じことが言えるのではないだろうか。優勝劣敗と寡占化が進むスーパーマーケット。毎月、経営統合のニュースが流れる。ある程度実力が酷似している同士なら、競い合うにしても、どちらかにハンディキャップをつける必要はない。だが規模も財力も違い、豊かさのレベルも違う者同士が一緒になることは、そこにしっかりとした哲学、理念を持っていなければならない。さらに地域のお客様を満足させ、売り上げ、利益の出るフォーマットが必要で、それを共有できるかどうかだ。売上、店舗数の合算によってパワーを増し、ドミナントが敷かれ、取引条件を有利に持っていくという選択が、SMの今後の生き残りのすべてとなるのかは大いに疑問だ。質の伴わない膨張は危うい。大きくなれば否応なしに均一化、均質化が求められる。だがその均一化のサイズに合わない会社は徐々に不自然さが拡大する。不自然さは必ず、不自由さにつながる。やがて「ギリシャ」になる運命がそう遅くない時期に到来するだろう。スーパーマーケットはナショナルチェーンになるのが難しい。これだけ食文化が違う国で、全国どこも同じ景色のスーパーマーケットなど、御免だ。せいぜい地域の特性を生かしながらリージョナルチェーンの範囲だろう。スーパーマーケットのお客様の来店動機は、生鮮食品、デリカ、今晩のおかずがきっちりできる品揃え。お客様に常に感謝の心を持って、思いやりと技術とマネジメントの成長と会社の成長のバランスがとれてこそ成長できる。大きいから強いのかどうかは、アメリカの歴史、日本の小売業もかつて大手が相次いで破綻した歴史が教えてくれている。スーパーマーケットは地域特性、気候風土、地産地消的なもので地域に寄り添う会社が、小さくとも生き残っていくことだろう。そして今、最も輝いているのもそうした単独で頑張っているスーパーマーケットなのだ。

安藤 敏明