オホーツクの海明け

冬の間、海が流氷に閉ざされたオホーツク海沿岸では、春が近づき流氷が去ると一斉に漁が始まる。これを「海明け」といい、北海道の春の到来を告げる。そして海明けのこの時期に揚がる毛蟹が1年の間に特に味が良いとされている。

 オホーツクの流氷

オホーツク海の流氷は、アムール川からの水が流れ込んで塩分が低くなった海水が凍り、凍る過程で塩分が排出されたものと言われる。
オホーツク海は毎冬、訪れる流氷によって海を閉ざす。閉ざす2~3ヶ月間、漁が操業不能になる。そんな海は、日本で唯一、オホーツク海だけだ。
流氷は、厄介者のように感ずるが決してそうではない。遥かアムールから流れてきた流氷には「アイス・アルジー」という植物プランクトンを多量に含み、それが動物プランクトンを養い、さらに魚たちがそれを食べるという、豊かな食物連鎖が成り立つ。

海明けの毛ガニ

当然、毛蟹もこの恩恵に与り、海水温が低く、運動量が少ないなか、せっせと栄養を蓄える。この時期の毛蟹が身も味噌もたっぷりで、甲羅色がはっきりと赤く、大ぶりなものが多いのはこのためだ。
北海道は資源保護のため、各エリアで漁期が定められているが、この海明けの毛蟹は北海道のどの地域と比べても、味わいと姿かたちの両面から市場価値が高い。
今年の解禁は3月18日。この日は時化で荒れていたが初漁があった。毛蟹漁は初夏まで続くが、脱皮が始まる4月下旬までが特に美味しい時期である。

美味しい毛蟹へのこだわり

オホーツク海産の毛蟹がすべて美味しいのかというと、そうではない。やはり、水産加工会社の考え方や扱い方が味を大きく左右する。当然、大きな会社も小さな会社も自前で釜をもっていなければ話にならない。その日の朝に水揚げされた活ガニを目利き、身入りと味噌の具合をチェックし、入札から僅か30分後には釜へ入れるという仕事の速さ。この間、真水で活ガニを締め、足を輪ゴムで固定する作業を行う。毛蟹の質でゆで時間や塩の濃度を変えるのは当然として、水産加工会社によっては塩のこだわりは欠かせない。オホーツク海産の自然塩など数種類をブレンドし、さらに風味を引き出すために、オホーツク海のにがりを使って炊き上げる会社もある。11時には周辺の空港から本州へ。そして市場へと配送される。札幌の力のあるお寿司屋では、その日の夕方にはオホーツクの毛蟹がお客の口に入る。

スーパーマーケットの毛蟹売り場

海明けの毛蟹が、スーパーマーケットの店頭に出回るのは4月初めからの1ヶ月。限られた時期で限られた地域からの毛蟹は量の確保が難しい。それゆえ水産加工会社や仲買とのセール日の調整が必要になる。そして北海道では毎日どこかのスーパーマーケットのチラシに「海明け」の文字が躍る。スーパーのセール実施日で北海道のスーパーマーケットの力関係がよくわかる。また、脱皮前に年末用に向けた冷凍が始まる。そうすると商品の奪い合いで価格が高騰する。3月の走りのほうが価格的には安いという皮肉な結果となる。
僅か1ヶ月ほどの期間に、限られた地域で食べることができる、まさに「春の旬感グルメ」。
これが海明けの毛蟹である。

安藤 敏明