昭和カフェ

最近、郊外や住宅街や幹線道路沿いに相次ぎオープンしている大型カフェ。「昭和の喫茶店」を思わせるコンセプトが、意外や意外、幅広い年代から支持を集め、今や、1000店を超えるあの「スターバックス」にも迫る勢いだという。その代表的喫茶店が「コメダ珈琲店」だ。私が「コメダ珈琲店」を知ったのは10年ほど前、名古屋に仕事の関係で出かけたとき、郊外に大きな看板が目立った。最初は京都で有名な「イノダ珈琲店」の間違いかと思ったが名古屋の人気珈琲店だという。名古屋などの東海地区は豪華なモーニングなどを競い合う「喫茶店激戦区」。ここで店舗を増やして、2003年に関東に進出。現在は東北から九州まで615店を営み、多くが駐車場と座席数を100席前後備えた郊外の大型店だ。今後も年間70~80店のペースで店を増やしていくという。

長居OK、郊外フルサービス型カフェが大人気

飲食業界も数少ない成長市場として注目しはじめた。もちろん、新聞やTVのメディアも特集が組まれ始めた。駅から徒歩10分以上かかる立地、平日の午前中だというのに、マイカーや自転車の老若男女が吸い寄せられるように入っていく。午前10時半頃には約100席が満席になり、2、3組がレジ前のベンチで待っている光景が映し出されていた。「この時間帯はいつも混む」との男性店員の話も紹介されている。若い人の多い駅前のカフェは椅子が硬く、飲んだら早く出て行けと言わんばかり。ここは気兼ねなく長居できることも魅力。店内にはスポーツ紙を含む新聞約10紙、週刊誌や女性誌約20誌が備えられている。私たちの世代は喫茶といえばフルサービス型のそれが当たり前だった。ドトールが登場した80年代半ば以降、フルサービス型の店は、セルフ型カフェに駆逐され続けてきたが、今年、その潮流が変わってきたようだ。そこには消費者の「セルフカフェ疲れ」がある。

くつろぐ団塊、ママ友

セルフ店のカフェは、一杯200~300円。だが、隣の席との空間が狭くて落ち着けない。多少値段は高くても、ゆったり過ごしたいと考える人が増えてきた。団塊の世代がリタイアし、郊外の住宅で時間に余裕を持つようになった影響が大きい。団塊の世代は若いころ、喫茶店に親しんだ世代。加えて東日本大震災以降、多くの人に「人間らしく生きたい」「自分にとっての幸せを大事にしたい」という感情が芽生えてきたことも関係しているかもしれない。くつろぎたいニーズがあることは分かったが、本当にくつろぎたいのなら自宅で過ごすのが一番のはず。「人には自宅でも職場でもない憩いの場、サードプレイスを求める気持ちがある。男は昔から仕事帰りに居酒屋に寄るのが一般的だったが、働く女性もまた、家に帰るまでの少しの間、自分と向き合う時間が欲しい。また子供を持つ主婦にとっては電話がかかってきたり、訪問者があったりと職場の様なもの。喫茶店やカフェで心の荷物を下ろしたいという思いは主婦こそ切実なのだ。そうした女性の姿が男性より目立っている。近くの幼稚園に子供を送った後、昼の「お迎え」の時間までおしゃべりをしているというママ友グループ。そして一人暮らしの女性も多い。

昭和カフェは本当に復活したのか?

この流れを見た喫茶店チェーン各社は近年、フルサービス型店舗の展開を急いでいる。
ドトール・日レスHDは「星乃珈琲店」、銀座ルノアールは「ミヤマ珈琲」を郊外を中心に出店して攻勢を強める。「すかいらーく」グループは、ファミレス店舗を「むさしの森珈琲」へ転換した。しかし、国内の喫茶店数は最盛期の80年代前半の半分程度に減っている。特に個人経営の店の減少が著しい。
「昔ながらの喫茶店が人気回復」といっても、大手のチェーンばかりではちょっとさびしい。
私の自宅の近く(といっても車で5分程度)にも、産地にこだわった豆を自家焙煎し、一杯ずつ手作業で抽出する喫茶店が2店ほどある。広くはないが駐車場もあり、レトロな雰囲気の店内には若者の姿もあるが、ほとんどは私と同世代の人たちだ。
時代の移り変わりが激しい中、「質の良いコーヒーを出来る限り安く提供したい」との思いで営業を続けている店主たちの「昭和カフェ」が本当に復活するのはまだまだ遠いような気がする。

安藤 敏明