「選 択」

選択肢の災い

「大型家具店のイケアに行くと、恋人や夫婦が言い争いを始める」。最近のアメリカウォール・ストリートジャーナル紙の記事である。イケアは、客が組み立てることで価格を抑え、北欧生まれのデザインと品揃えの多さで人気がある。日本では8店が営業中だ。
イケアの家具は、サイズや色のほか、縦長か横長かといった微妙な違いの選択ができる。そのため好みの小さなズレが問題になる。毎日過ごす生活空間だけに、服や音楽などと違い妥協しにくい。店側も問題に気づき、「まずカタログを見て話し合い、絞り込んで来店を」とアドバイスしているという。豊富すぎる選択肢が災いするのだ。

選択の悩み、そして後悔

選択と言えば、アメリカコロンビア大学のシーナ・アイエンガー教授が、高級スーパーの依頼を受けて行った「ジャムの実験」が有名だ。
24種類のジャムを試食できる売り場と、6種類しか試食できない売り場、客の行動はどう異なり、どちらが売れるかを調べた。「豊富な品揃えが売り上げを伸ばす」という経営方針を確かめる狙いだった。だが実験の結果、24種類を試食した客の3%しか買わなかったのに、6種類だと30%近くが買った。選択肢が多いほど選ぶのに悩み、選んだ結果が本当にいいのかも気になり、結局選ぶのをやめてしまう。
「なぜ選ぶために後悔するのか」を書いた、著名な心理学者であるバリー・シュワルツ博士は、物質文明がもたらした現状を批判的にとらえて、お金もかかる複雑な選択肢について、「役に立たないだけでなく危害を加え、私たちをより悪い方向へと導くことになる」と指摘し、「選択肢の多さがわれわれに繁栄をもたらすという地点は、とっくに通過してしまった」と断じる。

断捨離(だんしゃり)

こんな状況から解放されたいため、選択の幅を自ら狭める作業が「断捨離」だ。それは単なる整理術や片づけ方法ではない意味がある。ヨーガの「断行」「捨行」「離行」という考え方を応用して、人生や日常生活に不要なモノを断つ、または捨てることで、モノへの執着から解放され、身軽で快適な人生を手に入れようとする考え方、生き方である。最近「フランス人は10着しか服を持たない」という本が売れているのも、相通じる部分があるのだろう。
「重要でないもの、他人に任せられる選択は除き、自らの価値を高めてくれる選択に集中する」「人生とは選択した結果の積み重ねだ。その選択が自分の幸せに貢献するかどうか毎回考えなければならない」。これはNHK・Eテレの「コロンビア白熱教室」でのアイエンガー教授のアドバイスだ。

スーパーマーケットの選択

スーパーマーケットも、毎日毎日今晩の食事メニューや明日のお弁当を何にしようと来店されるお客様が、選ぶ楽しみや選ぶ悩みで溢れている場である。500坪の食品売り場でもおよそ6-8000 SKUが品揃えされている商品から10~15点の商品を選ぶのがスーパーマーケットだ。そのため売り手側は「いくつ売ってみよう」と挑戦意欲をもって、あの手この手のインストアマーチャンダイジング力を発揮する。試食や見本を出し、他ヶ所陳列や的を拡大して買い手にアピールし、購買意欲を高める。だが、選ぶ楽しさや刺激も度を超すとお客様を悩ませることになる。その “ さじ加減 ” が難しい。結局、お客様の幸せに貢献する行為なのかどうか、いつも考えて仕事をやるしか答えは見出せない。

安藤 敏明