本日は晴天なり

私が子供のころ、学校の運動会のマイクテストは「本日は晴天なり」が決まり文句だった。
もう、マイクの音声チェックをするとき「本日は晴天なり」という人はいないだろうと思っていたら、実は無線局運用規則で、テスト電波の発射の際「本日は晴天なり」と言うと決められているそうだ。この随分古めかしい言い回しは、ラジオ放送が始まった大正時代にまでさかのぼるそうだ。この言葉、中央気象台が試験電波放送をするときに「It’s fine today」という短い言葉を直訳してしまったらしい。「It’s fine today」という短い言葉の中に母音や特徴のある子音など、いろいろな「音素」が入っているので、短時間で効率よく発音して音響機器のテストが出来る用語ということで使われていたのだが、もちろんこれは英語を使用するからこそ成立する話であって、日本語に訳しても何の意味もない。

同じように、記念写真をとるときに「はいっ、チーズッ!」「かしゃっ」という流れが常識化しているが、そもそもはアメリカ人が写真を撮るときに「Say Cheese」と掛け声をかけて自ずと笑顔にさせる知恵だったという。日本では昔、チーズのCMで使われていたことを覚えているが、それが爆発的に流行したまま定着したらしい。欧米の文化が日本に入ってきたことと、何事も欧米の文化を賛美して疑いを持たず受け入れてきたことによって、こういうズレが生まれたのだろう。
だが、「チーズ」と言っている間は口が笑顔の形になるから「チーズ」なのであって、「チーズ!」「かしゃっ」では口が「ウ段」のすぼんだ口になってはなはだよろしくない。ほとんどの日本人は「チーズっ!」と言った後に慌てて笑顔を作り直しての撮影を自然とこなすようになっている。つまりは、「かしゃっ」は「chiiiiizu」のiが続いている間に言わなければ、この知恵の意味がなくなるのだ。
私の会社があるビルのすぐ近くに時計台があり、朝から観光客がわんさか記念写真をとっている。韓国の人は写真に収まる際、「キムチー!」と言っている。これならば、言い終わった後でも笑顔になっているから、理にかなっている。日本人もそろそろチーズ以外の、できれば「イ段」で終わる日本の単語を叫ぶようにすれば良い。「楽しいi」でも「可愛いi」でも「梅干しi」でも「ひじきi」でも、それこそ「戦争反対いi」でもいいのだ。そろそろ日本語に訳しても何の意味もないことに気付くべきだ。

安藤 敏明