努力義務

「努力義務」という法律用語がある。条文では「・・・・するよう努めなければならない」などと表現される。文字通り努力する義務だ。では、努力しない場合はどうなるのか。罰せられない。それが「努力義務」のポイントだ。

果たさなくても罰せられない義務をみんなが守るだろうか。難しいところだ。大多数の人々は罰則がなくてもルールを守るだろうが、守らない不届き者がいないとは限らない。その時どうするか。9月に施行された、改正労働者派遣法の大きな論点の一つはそこにある。
今回の法改正では「雇用安定措置」というのが盛り込まれた。派遣先での仕事が終わったとき、労働者を派遣した会社は①直接雇用してくれと派遣先に頼む「努力義務」がある。しかし、多くの場合は直接雇用したくないから派遣を利用するのだ。だめだった場合は、②新しい派遣先を提供する。③自分の派遣会社で無期雇用する。④安定した雇用の継続が確実に図られる措置をとる―― のいずれかの「努力義務」がある。派遣会社は②は試みるだろう。もともとそれが仕事だ。しかしすぐに見つかるとは限らない。その場合は③か④ということになるが、③は派遣先が見つからない間も派遣会社が給料を保障することを意味し、ハードルが高い。すると④になる。
④について、厚生労働省は「有給でキャリアアップ教育を実施する」というイメージを持っている。有給で研修を受けられるなら悪くはない。派遣会社のホームページをのぞいてみると、確かにあった。「名刺の受け渡し方」「今さら聞けないビジネス敬語」などだ。有料の研修もあるが、ホームページの更新が遅れているのだろう。きっと多分。
しかし、すべては「努力義務」だ。意図的にルールを無視する悪質業者がいたらどうするのだろう。その場合は「許可を取り消す」あるいは「更新しない」という最終手段がある。今回の法改正ではすべての事業者を許可制とし、厚労省の監督権限を強めたことになっている。それでも気になることが残る。現場で査察する労働基準監督官の少なさだ。派遣事業者は全国で約1万8000件(15年度)。対して労働基準監督官は約3200人(15年度)。この人数で派遣事業者だけでなく、すべての事業者の雇用状況をチェックしている。人手が全く足りない。そのことを十分知っている政府が、あえて「努力義務」にとどめ、かつ「雇用の安定に資する改正だ」と強調しているのだから、政府は派遣労働者や労働組合からの告発をアテにしていると考えるのが自然だろう。「何かあったら、どんどん言ってね」と。それが働く側の「努力義務」と言わんばかりに。

安藤 敏明