vol.52

6月の書棚から

今回は、ロングセラーになっている『サービスの達人たち』シリーズ(野地秩嘉著:新潮文庫)の究極のおもてなし編から、いくつかを抜粋します。

 

「デパ地下の女王」とんかつ娘の気迫

山崎 明希子は静岡県生まれ。高校を出てすぐに、とんかつのまい泉に入社した。身長は143センチという小柄。いま彼女が店長を務めている東武百貨店池袋店の売場では身長以上の存在感を感じさせる。彼女なしではまい泉の営業に支障が出るくらい売上を上げ、接客サービスをリードしている。

下積みの5年間を過ごした後、22歳で日本橋三越本店の店長に抜擢された。しかし、店は最悪の立地環境だった。悩みながらもその頃、あることを始めた。
「日本橋三越の店長になってから、自分だけのノートに商品別の売上記録をつけることにしました。今はパソコンがあるのですぐに分かるけれど、あの頃は本部まで行かないと商品別の売上は把握できなかったのです。ですから、営業が終わった後、売上・個数・種類をつけることにしたのです。大切だと思ったのは売れ残りの商品でした。例えば、とんかつとコロッケをおかずにした弁当は売れたけれど、魚だけの弁当は6個残ったとか・・・。記録をつけながら、何故その商品は売れなかったのかを考えました。商品が悪いのか、それともその季節には魚のおかずは向かないのか・・・。記録をつけているうちに、この商品が売れるか売れないかがだんだん分かってくるようになりました。そして、逆に売れる商品とは何か、どういう商品を開発すればいいのかも見えてくるようになったんです」

「記録を始めてから、少しでも売れ残りをなくそうと販売方法を工夫するようになりました。がらりと変えたのは、お客様への声掛けです。お客様が寄ってきたら会話が大切です。会話のきっかけは、天気と用件の2種類で巣。天気は雨の日だったら『お足元の悪い日にありがとうございます』と声をかけながら会話に持ち込む。用件を聞くとは、どういう商品を求めているのかを聞き出すことです。揚げ物なのか、かつサンドなのかを丁寧な言葉で確かめる。午前はお土産としてかつサンドを買う方が多く、午後から夕方はその日のおかずにとんかつやエビフライなど揚げ物を買っていく方がほとんど。何を欲しているかをしっかり確認して、おすすめの品について説明します。あくまで聞かれたら答えるのですが・・・。その後は、できるだけもう一品買っていただけるように、黒豚そぼろ、とんかつソースといった周辺の商品を紹介していきます」

ところで、こうした販売方法は彼女がゼロから考えたわけではない。客が来ない時間に売場を離れ、売れている他店を見に行って考えたことだ。他店の腕利き販売員がやっていることや販売文句を聞いて分析し、自分なりのアレンジを加えたのだ。